ラオスの安井清子さんから、元難民のモン族の人びとが暮らすシヴィライ村からの便りが届きました。
by laospantao


新しい図書館員のツィーのこと

 ツィーは図書館の新しいスタッフだ。3か月ほど前から働きだした。
 彼女はまだ19歳なのだけど、実はもうすでに結婚して離婚した。この村の中学4年生(つまり高1)の時に、ルアンパバン県のモンの青年と結婚し、学校を辞めて嫁に行った。でも、結婚してみたら、相手が暴力をふるう。彼女は何度もなぐられて、脳震盪を起こして倒れたりしたそうだ。すったもんだした挙句、あまりにひどい暴力に耐えられず、昨年、離婚して戻ってきて、実家で暮らし始めた。でも、いろいろな苦い経験をしたからだろう、胃痛がひどく、痛みだすとひどい時は意識を失って倒れてしまうようになった。

「モンの習慣だと、一度、結婚して家を出た娘が出戻ってきても、もう魂の居場所が違うから、実家で死んではいけない…っていうことがあるの。だから、私が倒れそうになると、みんなが、『大変だ、家から出さなくちゃって』、具合が悪い私を、家から出して隣の家の軒下に寝かせられるの。私、とても悲しくなって泣いたわ」
ツィーはとても沈んだ顔をして言った。

 モンの風習では、嫁いで家を出て行った娘は、家の人数からは削除され…恐らく魂の所属の問題なのだろうが、娘はその家の所属ではなくなった…ということで、出戻った場合でも、元気な時はいいが、具合が悪くなると家の中にいられないのだという。ツィーの場合は、お父さんに奥さんが二人いて、彼女の生母である1番目の母よりも、2番目の母が家の采配をふるっていることもあって、よりいにくいのだろう。
「だから、私、何とか独立したいの。自分で小さな小屋でも作って、そこに住まないと、具合が悪くなったら外にいなくちゃいけないんだもの」
 ツィーは、悲しみを押しこらえたような小さな声で何度も言った。
「図書館で働けないかしら・・・・」

 彼女の立場はわかるが、だからと言って、人数的には足りている図書館のスタッフに雇うのもなぁ…しばらく、私は渋って答えなかったのだが、何度も彼女に言われ、前は明るく可愛らしかった彼女が、ずっと沈んで暗い顔をしているのを見て、この若い彼女がこれから自分で人生を開こうというのに、少しでも足がかりになれば…と、図書館で働いてもらうことにした。

 3か月ぶりに村を訪れた。図書館を覗くと、ちょうど休み時間だったのだが、中学生たちが、所狭しと座り込んで、本をめくっている。本を黙読している子もいれば、友達と一緒に、声を出して絵本を読んでいる子もいる。そんな中、まだ学齢前の小さな子どもたちも来ていて、その小さな子たちに、ツィーはしゃがみこんで、絵本をお話してあげている。あんまりにも自然で、彼女が、図書館で働いている姿を見るのを初めてだったことを忘れていたほどだ。そういえば、ずっと暗かった顔が、明るくなっている。
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子どもたちに絵本を読んであげるツィー

「どうなの?元気なの?胃は痛くないの?」
「うん、でも薬はずっと飲んでいるの。そうじゃないと、お腹が痛くなるから」
「図書館の仕事は?」
「好きよ。子どもたちに本を読んであげるのも楽しいし、自分がいろいろと知識を得られるのもいいし…あっという間に時間が過ぎてしまうのよ」
と、ツィーは晴れやかな顔をして言った。久々に見る笑顔だ。

 マイイェンはそんなツィーを見守るすっかりお姉さんの風格だ。今はすでに妊娠2か月で、細い身体のお腹がふくらんできている。マイイェンも、図書館に入ったことがきっかけで、暗さから抜け出した女の子なのだが、ツィーにもぜひ、自分に人生を掴んで歩いて行ってほしい。

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ツィー(左)とマイイェン(右)

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図書館で本を読む中学生たち

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日本の絵本(ラオス語訳を貼ってある)を楽しそうに読む中学生
by laospantao | 2013-05-14 20:00
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