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ラオスの安井清子さんから、元難民のモン族の人びとが暮らすシヴィライ村からの便りが届きました。
by laospantao


婆ちゃんの神隠し?

 シヴィライ村のルー・ションの家のお婆ちゃん。いつもにこにこして、村のみんなから慕われている婆ちゃんが、1カ月ほど前に、3日間、いなくなった。婆ちゃんは働き者で、もう腰も脚も痛いのに、じっとしていない。日課のように、毎日、歩いて薪を拾って集めている。その日、お昼前、いつものように薪をとりに行った婆ちゃんは、そのまま姿を消してしまった。
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 夕方になっても帰ってこないので、村のみんなが探しに出かけた。村のすぐそばまで、ラオスの一番古い水力発電によってできたダム湖、ナムグム湖の水が入り込んでいる。「水におぼれてしまったのではないか?」という人もいた。拾った薪は、途中放りだしてあったという。いつも行く場所にはいない。もう、おぼれて死んでしまったのではないか? でも、婆ちゃんを見かけた村の子がいた。

「婆ちゃん、バトゥーナーム(村から少し離れている、ダム湖への集水のための水門)の方へ歩いていたよ」と。それは、村へ帰るのとは反対方向で、まだみんなが探していない方向だった。そこで、隣村の人たちまでも動員し、総勢100人ほどが、夜中を徹して探した。けれど、見つからなかった。結局、次の日も1日、そして、3日目。村のシャーマンの中には、「もう死んでしまったよ」という人もいたし、「いや、まだ生きている」という人もいた。婆ちゃんの娘たちは、「きっともう、お母さんは死んでしまったんだ」と、オンオン泣きはじめた。

 そんな時、婆ちゃんは見つかり、村人に背追われて、村に戻ってきた。婆ちゃんは、「わたしゃね、薪を拾っているうちに、ふっと倒れたようで、それから記憶がないんだよ。ふっと目が覚めてね、何でこんなところにいるんだろう。帰らなくちゃ・・・って立ちあがろうとすると、履いていた草履もない、かぶっていた頭巾もないだろ・・・ふらふらする。どうしたんだろうって思っていたら、村の人がやってきてくれたんだよ」と言う。

 婆ちゃんを見つけたピア・ションは、「婆ちゃんが座り込んでいるのが見えた。それで駆けつけて、『3日もいったいどこにいたんだい?』と聞くと、『えぇ?さっき家を出てきたところじゃないか。夜なんか越していないよ』と言うんだ。『腹すいてないかい?』ときくと、『お腹なんかすいていないよ』と言ったけれど、きっと言ったとたんに、腹がすいたのを思い出したんじゃないのかい?『あぁ、わたしゃ、お腹がすいた、立ちあがれない』って、急にふらふらしてしまったんだ。それで、おぶって帰ってきたんだよ」

 村の人たちは、婆ちゃんは、ダー(モンの霊)に連れていかれたんだ…と言う。シャーマンは、婆ちゃんが、2人の霊に両方から腕をとられて連れて行かれた…と言ったという。片方の霊は、未亡人の霊で、婆ちゃんも未亡人なので、結局、放してくれたのだろう。もし、男だったら、放してくれなかっただろう…と言う。

「ダーが、婆ちゃんを放したから、それで、ぼくらに姿が見えて見つけることができたんだよ。ダーが捕まえているうちは、いくら探しても見つからない。それに、そうじゃなかったら、3日も何も食べずにいられるわけがないじゃないか」と言う。

 モンには、よくある話らしい。ダーに連れていかれて、行方不明になってしまう人。普段では移動できない距離の遠いところで見つかる人・・・帰ってきても、しゃべれなくなってしまう人もいるという。何日も食べていないはずなのに、平気なのは、ダーが何かを食べさせてくれているからだろう・・・と。

 婆ちゃんは、「ダーに連れていかれたって、みんなが言うけど、さあてね、わたしゃ何も覚えていないんだよ。でもね、今も目をつぶるとね、森の中をさまよっている時に戻ってしまうんだ」と言った。

 モンの人びとの生活圏には、ダーと呼ばれる、目に見えない霊たち…そして、天狗や山姥のような妖怪たち…が、今でも、身近に存在している。シヴィライ村は大きな道路沿いの村で、電気も通っているし、テレビもある。それでも、やはり、ダーは確かにいるらしい。少なくとも、村の人びとが存在を感じている限り、存在していると言っていいだろう。

「ぼくも、婆ちゃんと同じところで薪を伐ってるんだけど、あれからは怖くて、まだ一度も行けないぜ」と、図書館で働く男性、マイが言った。未亡人のダーなら、若い男だったら絶対に放してくれない。いや、これは冗談ではなく、本気で怖いだろうな・・・と思う。
by laospantao | 2011-12-12 00:00
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